日本の慢性腎臓病(CKD)患者さんは約2,000万人で、成人の5人に1人が慢性腎臓病であると推計され、高齢化に伴って今後さらに増えることが見込まれています。慢性腎臓病は軽度であっても心臓病や脳卒中などのリスクを高め、生命に関わる病気に繋がります。
慢性腎臓病について
腎臓の役割
腎臓は、血液をろ過して余分な水分や塩分、老廃物を尿として排泄するほか、血圧を調節するホルモンや血液をつくるホルモンも産生します。さらに、ビタミンDを活性化してカルシウムの吸収を助け、骨を丈夫に保つなど、腎臓はさまざまな面で体の環境を整える大切な役割を担っています。
慢性腎臓病とは
腎臓本来の働きが徐々に悪くなる状態のことを慢性腎臓病といい、尿や血液、CTなどの検査で腎臓に異常が認められ、それらが少なくとも3ヵ月以上続くと診断されます。
慢性腎臓病の進行の程度は「ステージ」という分類で評価されており、腎臓の働きを示すeGFR値(値が低いほど腎臓の働きが低下していることを示す)によってステージ1からステージ5に分けられています。
なお、eGFR値は血液検査で確認できますが、腎臓の状態は尿検査(尿蛋白、尿潜血など)でも把握することができます。
慢性腎臓病は初期には自覚症状がほとんどないため、定期的に健診で尿検査や血液検査を受けることが早期発見に繋がります。
心不全とのかかわり
心臓は血液を全身に送り出し、腎臓はそれを受け取ってろ過し不要なものを尿として排泄しています。このように、心臓と腎臓は血管を通じて繋がっており、一方の臓器が悪くなるともう一方にも悪影響が及びます。
慢性腎臓病になって腎臓の働きが低下すると老廃物などを体外に排泄できなくなり、血圧が上がって心臓に負担がかかるため、心臓の働きが低下します。また、腎臓が正常に働くには十分な血流が必要ですが、心臓の働きが低下すると腎臓に流れ込む血液が減り、腎臓の働きが低下します。
このように慢性腎臓病と心不全は互いに悪影響を及ぼしあっており、慢性腎臓病の早期の段階から心血管疾患(心筋梗塞・心不全・脳卒中など)の発症リスクが高まることも知られています。このことから、心不全の発症を防ぐためには腎臓の異常を早期に発見し、慢性腎臓病をきちんと治療することが大切です。
『心不全診療ガイドライン』でも、慢性腎臓病をもつ方はステージA(心不全リスク)に分類されています。詳しくは、「心不全の予防~心不全の発症を防ぐために~」をご覧ください。
慢性腎臓病の治療
生活習慣の見直し
慢性腎臓病の発症や進行には、高血圧や糖尿病といった生活習慣病が深く関わっています。そのため、日々の生活習慣を整えることが治療の基本となります。
- 食事療法
心臓や腎臓を守るためには「減塩」が重要です。医師や管理栄養士と相談しながら、長く続けることができる自分にあった工夫をみつけましょう。 - 運動療法
適度な運動は、腎臓の働きが低下するのを予防したり、持久力や筋力の向上、フレイルの改善などさまざまな効果が期待されています。医師からの注意点を守り、病状にあわせて運動を行いましょう。
生活習慣や食事、運動のポイントは「心不全の悪化を防ぐために」でも紹介しています。このページでは心不全の悪化予防を目的とした内容を紹介していますが、これらは慢性腎臓病の予防や進展予防にも役立ちますので、ぜひご覧ください。
薬物療法
生活習慣の改善だけでは不十分な場合、患者さんの状態に応じて複数のお薬を組み合わせて治療を行います。 尿とともに余分な糖や水分を体外に出して腎臓に流れ込む血液の量を調節することで腎臓の負担を減らすお薬(SGLT2阻害薬)や、カリウムやリンを体外に出すお薬(カリウム吸着薬、リン吸着薬)、老廃物を体外に出すお薬(球形吸着炭)、体に溜まった水分や塩分を体外に出すお薬(利尿薬)などが、患者さんに応じて処方されます。
なお、高血圧、動脈硬化性疾患、糖尿病、メタボリック症候群/肥満といった病気は腎臓や心臓に負担をかけることから、適切に治療することが大切です。そのため、これらの病気に対するお薬を使用することもあります。
心不全の発症を防ぐために、早期から適切に治療と予防を行うことが重要です。そのためには、生活習慣を整えて定期的に健診を受けることが心不全予防の第一歩となります。
【参考】
・日本循環器学会/日本心不全学会.2025年改訂版心不全診療ガイドライン.
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf.2025年11月閲覧
・日本腎臓学会.CKD診療ガイド2024.
https://cdn.jsn.or.jp/medic/guideline/pdf/guide/viewer.html?file=1-178_v2.pdf. 2025年11月閲覧
・日本腎臓学会.患者さんとご家族のためのCKD療養ガイド2024.2024.
・Maruyama S, et al.: Clin Kidney J. 2024; 17: sfae228.
2025年12月作成
