心不全は何もしなければ徐々に悪化する病気であるため、慢性心不全では「ステージの進行を防ぐこと」を治療の目標とします。
心不全が悪化すると、心臓の働きが徐々に低下して心不全の症状が強く出現し、入退院を繰り返すことになります。また、心臓の働きが低下すると死亡のリスクが高まります。そのため、慢性心不全では、自覚症状を改善させて心不全の悪化による入院を減らすことが重要です。

慢性期の治療について

心不全の治療方針は、大きく心不全ステージ分類と左心室収縮機能による分類により決定されます。
左心室の収縮機能は、これまで

  • 収縮する力が低下した心不全(HFrEF)
  • 収縮する力が保たれた心不全(HFpEF)
  • その中間にあたる、収縮する力が少し低下した心不全(HFmrEF)

に分けられていましたが、2025年に見直された『心不全診療ガイドライン』では、さらに「治療によって収縮する力が改善した心不全(HFimpEF)」が追加されました。

なお、ガイドラインでは【ステージC】と【ステージD】の治療方針について以下のように示されています。
これまで、HFpEFでは主に「利尿薬による症状の緩和」と「併存疾患の治療」が治療の中心でした。しかし、今回のガイドラインから新たにSGLT2阻害薬を中心とした薬物治療が勧められています。

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心不全ステージ分類 左心室の収縮機能による分類 薬物治療
ステージC 1)左心室の収縮する力が
低下した心不全(HFrEF)
(LVEF 40%以下)
  • 下記の4種類の薬剤を中心とした治療を行う
    • ACE阻害薬・ARB・ARNI
    • β遮断薬
    • MRA
    • SGLT2阻害薬
2)左心室の収縮する力が
少し低下した心不全(HFmrEF)
(LVEF 41~49%)
  • SGLT2阻害薬を中心とした治療を行う※1
  • 併存疾患に対する治療を行う
3)左心室の収縮する力が
保たれた心不全(HFpEF)

(LVEF 50%以上)
  • SGLT2阻害薬を中心とした治療を行う※2
  • 併存疾患に対する治療を行う
4)左心室の収縮する力が
改善した心不全(HFimpEF)
  • 1)の治療を継続する
ステージD
  • 状態の変化に応じて治療薬の見直しを行う

参考:日本循環器学会/日本心不全学会.2025年改訂版心不全診療ガイドライン.
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf.2025年11月閲覧

ACE阻害薬:アンジオテンシン変換酵素阻害薬、ARB:アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬、ARNI:アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬、MRA:ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬
LVEF:左室駆出率。左心室が収縮したときにどれくらい血液を押し出すことができているかを示す数値。数値が低いほど、心臓のポンプ機能が低下していることを意味する。
※1 ARNI、ARB、ACE阻害薬、MRA、β遮断薬も考慮
※2 LVEF 55~60%までは、ARNI、ARB、MRAも考慮

上記のほか、心不全の症状を緩和させるために利尿薬を使用することも勧められています。
心不全ステージ分類と左心室の収縮機能をもとに適切かつ十分な薬物治療を行い、その後必要に応じてステージCでは植込み型除細動器(ICD)や心臓再同期療法(CRT)、ステージDでは補助人工心臓や心臓移植といった非薬物治療も検討されます。

心不全の治療を続けるには、病気について理解し、運動を取り入れるなど生活の工夫も必要です。困りごとや苦痛を感じることがあれば、医師・看護師など医療スタッフに相談してみましょう。

【参考】
日本循環器学会/日本心不全学会.2025年改訂版心不全診療ガイドライン.
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf.2025年11月閲覧

2025年12月作成