糖尿病は、インスリンが不足したり効きづらくなったりすることで作用が十分でなくなり、血糖値の高い状態が続く病気です。放置すれば重大な合併症を引き起こし、心不全の大きな要因になります。
糖尿病について
インスリンの役割
食事から摂取した炭水化物は消化管でブドウ糖として分解・吸収され、全身に運ばれます。インスリンは、ブドウ糖を肝臓や筋肉へ取り込ませて、細胞がブドウ糖を利用・貯蔵するのを助けることで、血糖値を適切な範囲に保つ役割を果たしています。
糖尿病の診断
診断には、血糖値とHbA1cが用いられます。両方が基準値を満たした場合に糖尿病と診断され、どちらか一方のみの場合は、別の日の再検査で再び糖尿病と判定されるか、典型的な症状(口渇・多飲・多尿・体重減少など)や糖尿病網膜症の有無などを総合して医師が診断します。
糖尿病の原因・症状
糖尿病は、主に1型と2型に分けられます。1型糖尿病は自己免疫などが原因とされ、膵臓のインスリンをつくる細胞が傷つき、インスリンがほとんど出なくなります。一方で、2型糖尿病は遺伝的な要因に加えて肥満や高カロリー食、運動不足によってインスリンの分泌が低下したり、肝臓や筋肉、脂肪の細胞がインスリンに反応しづらくなるインスリン抵抗性の状態になることが原因とされています。
初期は自覚症状がほとんどありませんが、口渇、多尿、体重減少などが現れることがあり、放置すると目や腎臓の病気、動脈硬化に起因する心筋梗塞や脳梗塞など、さまざまな合併症を引き起こします。
心不全とのかかわり
糖尿病をもつ方では心不全を発症するリスクが高いとされており、『心不全診療ガイドライン』でも、糖尿病をもつ方はステージA(心不全リスク)に分類されています。詳しくは、「心不全の予防~心不全の発症を防ぐために~」をご覧ください。
糖尿病が心不全のリスクを高める理由は、大きく3つあります。
①高血糖で血管の内側が傷ついて動脈硬化が進むと、狭心症や心筋梗塞を起こしやすくなります。
②糖や脂肪がうまく心筋で利用できなくなり、心臓の肥大や線維化が起こることで、十分に拡張・収縮できなくなります。
③腎臓の細い血管が障害されて慢性腎臓病(CKD)になると、血圧が上がって心臓の負担が増します。詳しくは「心不全の予防~慢性腎臓病(CKD)~」で解説しています。
糖尿病の予防と治療
生活習慣の見直しと定期健診
食事療法、運動療法、十分な睡眠時間の確保など生活習慣を整え、適正体重を維持し、禁煙と節酒を心がけましょう。自己測定と定期健診で血糖・血圧・体重・腎機能の変化をチェックし、HbA1cは7.0%未満、家庭での血圧は125/75mmHg未満を目標にしましょう。
生活習慣や食事、運動のポイントは「心不全の悪化を防ぐために」でも紹介しています。このページでは心不全の悪化予防を目的とした内容を紹介していますが、これらは糖尿病の改善にも役立ちますので、ぜひご覧ください。
なお、1型糖尿病は生活習慣が原因で発症するものではありませんが、血糖値を良好に保つためには生活習慣を乱さないことが大切です。
薬物治療
生活習慣の見直しだけでは数値が目標に届かない場合は、膵臓のインスリン分泌を促すお薬(スルホニル尿素薬)、糖の吸収を遅らせるお薬(α-グルコシダーゼ阻害薬)、糖を尿から排出させるお薬(SGLT2阻害薬)、インスリン抵抗性を改善するお薬(チアゾリジン薬)、不足しているインスリンそのものを補うお薬(インスリン製剤)、そして血糖値に応じて膵臓からのインスリン分泌を助けるお薬(DPP-4阻害薬/GLP-1受容体作動薬)などを医師と相談して使用します。
薬物治療を行う際は、医師や薬剤師の指示を守り、自己判断で中止しないことが大切です。
なお、1型糖尿病の方においては、インスリンそのものを補うお薬(インスリン製剤)による薬物治療が基本となります。
糖尿病は心不全の発症リスクを高めるため、早期発見と継続的な管理が何よりも重要です。日頃から自分の血糖や血圧に目を向け、体調の変化を見逃さず、医師や栄養士と相談しながら無理のない健康習慣を身につけましょう。
【参考】
・日本糖尿病学会.糖尿病診療ガイドライン2024.2024.
・日本糖尿病学会.糖尿病治療ガイド2024.2024.
・日本循環器学会/日本心不全学会.2025年改訂版心不全診療ガイドライン.
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf.2025年11月閲覧
・日本動脈硬化学会.動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版.
https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/GL2022_s/jas_gl2022_3_230210.pdf.2025年11月閲覧
2025年12月作成
