心不全の診療は、主に専門家がまとめた『心不全診療ガイドライン』をもとに行われていますが、2025年にガイドラインが見直され、「心不全にならないように予防すること」がこれまで以上に重視される内容になりました。
心不全の発症を防ぐためには、食事や運動など生活習慣を改善するとともに、発症リスクとなる病気を適切に治療することが重要です。
心不全予防の重要性
心不全は進展の程度によってステージAからステージDの4つに分類されており、一度ステージが上がってしまうと元に戻すのが難しいという特徴があります。
そのため、まだ症状が出ておらず心臓に機能的な異常もきたしてない【ステージA】の段階から対策を始めることが大切です。このような早めの取り組みによって、心不全の発症や突然死の予防に繋がることがガイドラインでも示されました。
日本循環器学会/日本心不全学会.2025年改訂版
心不全診療ガイドライン.
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf.2025年11月閲覧
また、今回見直されたガイドラインでは、心不全の発症を防ぐために「どのような病気に注意するべきか」「どのようなお薬を使用するべきか」についても明確になりました。
心不全予防のために
注意すべき病気
高血圧や糖尿病などは心不全の発症リスクとしてこれまでのガイドラインにも記載されていましたが、今回そこに「慢性腎臓病」が新たに加わりました。
主に以下のようなものが心不全の発症リスクとされていますので、心不全の発症を防ぐためにこれらをきちんと治療することが大切です。
また、そのほかにもさまざまな心臓の病気が心不全の原因になりえるので、それらの病気をもつ方はしっかり治療を続けましょう。
心不全予防の
アルゴリズム
今回、『心不全診療ガイドライン』に心不全予防のアルゴリズム(ステージAおよびBの方に対する、心不全の発症を防ぐための治療の方針)が追加され、生活習慣の管理や発症リスクとなる病気および心臓の病気に対する治療の重要性について触れるとともに、取り入れたほうがよいお薬についても具体的に示されました。
日本循環器学会/日本心不全学会.2025年改訂版
心不全診療ガイドライン.
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf.2025年11月閲覧
MRA:ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、ACE阻害薬:アンジオテンシン変換酵素阻害薬、ARB:アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬、スタチン:HMG-CoA還元酵素阻害薬(LDL-コレステロールを減らすお薬)
BNP/NT-proBNP:心臓が出すホルモンの一種で、血液検査で把握することができる。心臓に負担がかかっていると数値が高くなるため、心不全の診断や重症度の目安になる。
LVEF:左室駆出率。左心室が収縮したときにどれくらい血液を押し出すことができているかを示す数値。数値が低いほど、心臓のポンプ機能が低下していることを意味する。
ACS:急性冠症候群。冠動脈が狭くなったり(狭心症)、完全に詰まってしまい(心筋梗塞)、心筋に血液が行きわたりにくくなった状態。
上記のように、心不全の発症を防ぐためには
- 高血圧に対する治療を行うこと
- 2型糖尿病と心血管疾患※をあわせもつ患者さんまたは心血管疾患※のリスクの高い患者さんや、2型糖尿病と慢性腎臓病をあわせもつ患者さんに対して、心不全発症のリスク低下を見据えてSGLT2阻害薬を使用すること
- 2型糖尿病と慢性腎臓病をあわせもつ患者さんに対して、心不全発症のリスク低下を見据えてMRAを取り入れること
が勧められています。
患者さんの状態に合わせてこれらのお薬を上手に取り入れながら、きちんと治療することが大切です。SGLT2阻害薬、MRAなどのお薬は「薬物治療」でも紹介していますので、あわせてご覧ください。
※心血管疾患
冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症)、脳卒中、末梢動脈疾患(足の血管が詰まる病気)など
2025年に見直された『心不全診療ガイドライン』では、「予防」の大切さがより明確に示されました。予防の鍵は、まずは毎日の生活習慣の改善にあります。
「心不全の悪化を防ぐために」では食事や運動のポイントを紹介していますので、できることから日常生活に取り入れてみましょう。
【参考】
日本循環器学会/日本心不全学会.2025年改訂版
心不全診療ガイドライン.
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf.2025年11月閲覧
2025年12月作成
